2024年2月19日月曜日

IT: ITパスポート試験と初級アドミニストレータ試験の違いとは

IT業界を目指す、あるいは業界に携わる方々に人気が高い資格のひとつに『ITパスポート試験』(iパス)があります。

iパスは資格取得のための学習を通じて、ITの幅広い基礎知識を獲得するとともに業務や経営などへの活用方法を知るとともに、資格取得によりその習熟度を証明する、といった目的で運用されている国家資格です。経営学や業務効率化の初歩的な知識も必要とされ、知識がコンピュータ関連に偏っている人は合格が難しいとも言われます。

このiパスの認定制度は2009年から開始されていますが、この前身と呼ばれる資格があるのをご存じでしょうか。それが、同じ2009年に認定終了した『初級システムアドミニストレータ試験』(初級シスアド)です。

初級シスアドは黎明期のIT技術を使った業務の効率化や情報化の推進を目的として設定されたもので、数少ないコンピュータと紙媒体を組み合わせたあまり効率の良くない業務状況をIT技術で改善させたい狙いがあったようです。ただ当時は現在のようにITと業務が密接につながる未来図は描かれておらず、どちらかと言えば上位資格に当たる「上級システムアドミニストレータ試験」(現在のITストラテジスト試験)への登竜門的な位置づけであったように感じます。

iパスと初級シスアドの類似点と相違点

iパスは初級シスアドから制度変更されたものとされていますが、初級シスアドの資格を持つ自分自身は『認証制度としては後継だが、現在の内容は似て非なるもの』と捉えています。

初級シスアドの前身にあたるシステムアドミニストレータ試験の制度が始まった1994年当時は電話回線でインターネット通信をする時代で、コンピュータの普及加速に伴い情報インフラの整備と関係する人材の育成が急務でした。そのため初級シスアドは、今では当たり前となったICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)を広く普及させる人材、たとえばネットワーク管理者やオペレーター、テクニカルサポーターなどといった人々にお墨付きを与えるために提供されていたのではないかと捉えています。

対して現在のiパスは十分に整った情報インフラを生かしたビジネスを行うために必要な知識を認証することに主眼が置かれています。情報インフラにかかわる人材は十分そろってきたため、次のステップとしてインフラを生かせる「人財」を生み出そう、という事ですね。そのためビジネスに関連する知識を広く問う内容が増え、情報基盤関連の知識も広く浅く求められています。

もちろんiパスの認証開始当初は初級シスアドと共通する部分が多かったようなので、「iパスは初級シスアドの後継である」という説明も間違いではないでしょう。

両者の類似点

現在のiパスと初級シスアドで共通部分がありそうなのは『マネジメント系』と『テクノロジー系』、そしてシステムに関連する分類のいくつか、あたりのように感じます。ほかのカテゴリにも見知った内容が含まれているのですが、シスアド取得時に知識を得たのか、その後の実務で身に着けたものなのかが判別できないため、明確に断言はできません。

両者の相違点

iパスはITインフラやITビジネスの爆発的な普及後に認証開始されたためか、初級シスアドではあまり見られなかったビジネス的なカテゴリが増えています。

たとえば『ストラテジ系』のカテゴリでは、社会人として生活する際に必ず遭遇するといってもよい企業の活動や法務、経営戦略に関する知識が求められます。初級シスアドにもここに含まれるデータ分析やデータ利活用の知識が問われる内容があったと記憶していますが、10年を超える年月を経て必要な知識の範囲がはるかに広がっているようです。主に経営者や監査に携わる人向けの内容ですが、IT業界では「経営者兼社員の個人ビジネス」や「少人数経営のビジネス」を立ち上げる方が散見されるようなので、習得しておいて損はないと言えそうです。

また『マネジメント系』のカテゴリでは、開発技術やプロジェクト・サービス管理の知識を求められます。初級シスアドにも含まれていたかは不明確で、あったとしてもふんわりとした内容だったのではないかと思われます。「こんなものふつうは使わないよね?」と思う方も多いかもしれませんが、ソフトウェア開発のビジネスにかかわると企画営業職でも遭遇する機会が多くなる情報なので、そういった業種を目指す人は習得しておくと有利になりそうです。特に「プロジェクトマネジメント」分野の人財は大量定年時代を迎えたたたき上げ世代の離職により不足気味のようなので、若くして基礎知識を得ている人材はかなり重宝されるかもしれません。

初級システムアドミニストレータは「終わった資格」なのか?

最後に余談ですが、求職者から「初級シスアドは資格として書いても意味がない気がする」という声が上がっているようです。就職情報サイトなどでは「ぜひ書いてください」と案内されるようですが、資格認定が終了しているためどうにも信用ができない、という印象がぬぐえないようです。

これは個人の見解ですが、初級シスアドの資格は「条件付きで今でも通用する」と考えています。その条件とは、「実際に初級シスアドの知識を生かせる職種につき、業務を通じて知識を都度アップデートしてきた」です。

これは実際に試していただくとわかるのですが、初級シスアドの有資格者かつIT関連の業務に携わっていた方なら、現行のITパスポート試験である程度高めの正答率を出すことが可能です。ストラテジ系やマネジメント系がやや弱みにはなりますが、まじめに業務に取り組んでいた人なら自身の経験でカバーできます。初級シスアドの資格だけでは説得力が低いとしても、iパスで知識を要求される範囲の業務に携わった経験があるのなら、それを併記することでiパス有資格者相当の知識を持っていることを証明できるのではないかと思います。

もちろん資格欄に「ITパスポート試験」と書ければよりわかりやすいため、初級シスアド保有者でリスキリングを目指している方はiパスの取得を目指してみるのもよいかもしれません。

2024年2月18日日曜日

小ネタ:求人応募履歴書に書くと恥をかくかもしれないITスキル

最近はネットサービスの多様化やAI関連の新ビジネスが次々に立ち上げられている事から、情報通信業の求人が増加傾向にあるようです。そこにコロナ禍を背景としたテレワーク・リモートワークの浸透が後押しとなり、やむを得ない事情で離職したり地方へ移住するなどしたIT関連会社の就労経験者が転職や副業を目的に求職する事も増えているようです。

しかし、ひと昔ふた昔前はIT関連会社への勤務経験がスキルとみなされ、採用へのアドバンテージになる事もあったようですが、現在は明確な業務経験や資格がないと門前払いになる事も多いようです。特にIT関連の資格が少なかった90年代後半~00年代前半に就職した中高年世代は、有利と思っていたIT経験が求職に何も役立たなかった、という事もあるようなので注意が必要です。

少し長文となりますが、ご容赦いただけますと幸いです。

要注意スキル:Microsoft Office

多くの求職サイトでスキルとして選択できるものに『Microsoft Office』があります。「業務でよく使っていた」という事から安易にスキルとして書きがちですが、残念ながら「用意された集計表に毎日データを入力していた」「ご案内やメール本文などの文書を頻繁に作成していた」程度のものではスキルとはいえません。

現在では多くの市販PCにMicrosoft Officeがプリインストールされていることから、「Microsoft WordやExcelを使った経験がある」=「PCの使用経験がある」とされるようです。知識や技能の裏付けがないMicrosoft Officeのスキルは、もはや化石ともいえる「PC使用歴」というスキルとほぼ同義と言えそうですね。

Microsoft Officeで有力とされるスキル

Microsoft Officeには様々なアプリがありますが、スキルとして通用しやすいのは表計算・集計ソフトの「Excel」です。Excelはリリース当時から活用されていた「データの集計や分析」といった用途だけでなく、関数やVBAを利用した業務効率化ツールなどとしても広く利用されています。関数やマクロを使いこなせるスキルや、データ分析がしやすいテーブルやグラフなどを作成できる能力は、スキルとして求職時にアピールできる要素と言えそうです。

また、意外な場面で役立つとされるのがデータベースソフトの「Access」です。Accessはデータベースを作成し管理するために開発されたソフトで、ビジネスソフトの数が限られていた00年代頃までは人事データや受発注データ管理などで用いられるケースが多かったようです。最近ではデータのクラウド化が進んだ事からクラウド対応のデータ管理ソフトが主流となっていますが、いまだにデータベース管理にAccessを用いているところもあるようで、「Accessが使いこなせる」事がスキルとして通用することもあるようです。

Microsoft Officeのスキルは実務経験ベースになりやすいのですが、明確に証明できる資格としてMicrosoft社が提供している「マイクロソフトオフィススペシャリスト」(MOS)があります。この資格は2つのレベルがあるそうですが、一般レベルはIT関係者なら比較的難易度が低めとされているため、ITスキルを身に着けたい人は候補のひとつにしてもよいかもしれません。もちろんエキスパートレベルを取得できればキャリアアップや求職活動などで強力な武器となるようです。

要注意スキル:HTML/CSS

Webデザインで求められるスキルに『HTML/CSS』があります。「自分のホームページを作成・管理している」からといって安易にスキルとして書いてしまう人もいるかもしれませんが、こちらもMicrosoft Officeと同様に現在のIT業界ではスキルとしてほぼ通用しません。HTMLやCSSを用いたWebページ作成は今でも需要の高い能力なのですが、それに加えてWebページのデザインやサイトの運営管理といったプラスアルファの知識や技術を求められる場合が多いようです。自信満々に「HTML/CSS」と書くと、こういったプラスアルファ部分を持っていると誤解される場合もあるようなので注意しましょう。

HTML/CSSで有力とされるスキル

Webページ作成の基本になるHTMLやCSSの基礎知識を持っている事はほぼ必須ですが、それに加えてユーザーが使いやすいWebページのデザインやJavaScriptを利用した動的なコンテンツ作成などの技能が加われば、立派なスキルとして胸を張れると言えそうです。ちなみにHTML/CSSのスキルからは少し外れますが、デザイン系のツール類を扱う技能、動画や音声といったメディア編集技能、ECサイトの構築や運営に関する知識や経験、などは特定の業界で特に需要が高いため、併せ持つと即戦力級の価値を持つようです。

話を戻して。HTML/CSSもかつては実務経験ベースで証明が難しいスキルでしたが、近年のWebデザイナー需要の高まりもあり、現在では有用な資格検定が複数生まれてます。Webデザイナーの能力を明確にできる「ウェブデザイン技能検定」や「Webクリエイター能力認定試験」、Webページコーディングの高度な知識やスキルを証明できる「HTML5プロフェッショナル認定資格」などさまざまな資格検定が提供されているため、求めるレベルやジャンルに応じた資格検定に挑戦してみるとよいでしょう。

「ITの基礎スキル」がある事を証明したいなら

これは実体験からの話ですが、「IT関連の幅広い知識を持っている」という事実をスキルとして明確に説明するのは非常に困難です。そのスキルを資格として明確に証明できるのが、国家試験である『ITパスポート試験』です。

ITパスポート試験はIT関連の技術や手法、マネジメント関連の知識などなど、本当に幅広い知識を求められる試験で、取得できればIT知識の豊富さと実務適性を証明できます。国家試験の中では比較的合格しやすいと言われるもののそれでも50%程度とされるため、実務経験がない学生や若い社会人では少し難しく感じるかもしれません。ただパスできなくても資格取得の勉強でIT関連の基礎知識を多く学べるため、ある程度のアドバンテージとなりえると思います。

ここからは私事ですが、日本のIT黎明期にあたる90年代後半~00年代前半は家庭向けコンピュータもそれほど普及しておらず、コンピュータといえば技術者や学者、大企業のデータ管理者といった一部の人が使うものでした。そんな頃に生まれた基礎的なITスキルを証明するための資格がITパスポート試験の前身とされる『初級システムアドミニストレータ試験』です。私自身もこの資格を若かりし頃、年2回の開催になる前に取得しています。今では使いどころの難しいものとなってしまいましたが、10年を優に超える長きにわたってIT系の業務に携われた礎になったと考えれば、取って損はなかったと言えそうです。

ちなみに世間的には年2回開催のタイミングで合格率が下がったといわれていますが、その前から試験内容は少しずつ高度化しており、一緒に受験した仲間内で「合格者が去年よりかなり減ってるらしい」と話題になっていたのを思い出します。かくいう私自身はその当時からPCを所有し、プログラミング言語のBASICを使っていろいろなソフトを習作していたため、過去の試験の範囲外でも自前の知識で何とか対応できたので合格できた、という裏話があります。IT業界は次々と新たな技術が生まれているため、こういった「予想外のスキルが予想外の場所で活きる」場面が今後も見られるかもしれませんね。